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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2680号 判決

原告

塩沢一男

被告

松下電器産業株式会社

外11名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人らは、控訴人に対し、各自金1,000万円及びこれに対する昭和36年1月1日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに金員の支払請求について仮執行の宣言を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。

第2当事者の主張及び証拠

次のとおり訂正附加する外は、原判事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決5丁表6行目ないし同丁裏1行目を次のとおり訂正する。

「4 昭和33年6月から昭和35年12月末日までの間に、(イ)被控訴人松下電器産業株式会社及び被控訴人東京ナショナル機器販売株式会社は、後記(ハ)のとおり被控訴人西川らが別紙目録(原判決添付。以下同じ。)記載の物件を製造販売するにつき、本件実用新案権を侵害することを知りながら、その教唆、幇助をし、(ロ)前記被控訴人2名及び後記被控訴人西川ら2名を除く被控訴人山本武ら8名は、共謀の上、別紙目録記載の物件を7,500台販売し、(ハ)被控訴人西川薫及び被控訴人有限会社西川製作所は、別紙目録記載の物件を7,500台製造販売した。

そうして、別紙目録記載の物件の製造の態様及び教唆、幇助、共謀並びに販売に至った経緯の詳細は、次のとおりである。すなわち、」

2  原判決6丁表2行目冒頭から4行目冒頭「は、」までを次のとおり訂正する。

「また、被控訴人らが、右期間、本件物件1及び2の製造販売をし、もしくはこれを共謀又は教唆、幇助したことは、」

3  原判決6丁裏10行目「製造販売」から同11行目「有していた」までを、「製造販売の教唆もしくは幇助をした」と訂正する。

4  原判決11丁表2行目ないし6行目を次のとおり訂正する。

「7(1) 被控訴人らは、本件物件1及び2を製造販売する行為が本件実用新案権を侵害するものであることを熟知しながら、前記のとおり、製造販売もしくは共謀、教唆、幇助をして、本件実用新案権を侵害した。」

5  原判決11丁表7行目「(ただし、被告西川薫を除く。)」を削除する。

6  原判決11丁表10行目「(2)」の次に「さらに、」を加える。

7  原判決11丁裏5行目「が」の次に「関与して」を入れ、同行目及び8行目の「(ただし、被告西川薫を除く。)」をいずれも削除する。

8  原判決11丁裏10行目「合計」の前に「少なくとも」を加え、同行目「販売し、」の次に「もしくはこれを共謀、教唆、幇助し、」を加える。

9  原判決12丁裏2行目、3行目を次のとおり訂正する。

「(2) 同4の事実については、控訴人主張の期間内に被控訴人西川薫及び被控訴人有限会社西川製作所において、被控訴人有限会社西川製作所が本件物件1を約10台製造販売し、本件物件2を約50台製造した事実は認めるが、その余の事実は否認する。右被控訴人西川ら2名を除く被控訴人らは本件物件1及び2を製造販売し、もしくはそれを教唆、幇助したことはない。すなわち、」

10  原判決13丁表1行目「本件物件1」から同2行目「有していた」までを「本件物件1及び2の製造販売の教唆もしくは幇助をした」と訂正する。

11  原判決13丁表6行目ないし同丁裏9行目までを次のとおり訂正する。

「被控訴人有限会社西川製作所が製造もしくは販売した本件物件1及び2における白色油性ペイントを塗装した鋼板は、後記のとおり反射板ではなく、反射効果を有しないし、当時、紫外線消毒器に反射板が必須なものであることは知っていたが、電解研磨されたアルミ板を用いた反射板は、高価であったため、取付けることができなかったものである。

12  原判決14丁裏6行目、7行目の、17丁裏10行目、11行目の、21丁表7行目、8行目の、同丁裏2行目の、同丁裏11行目、22丁表1行目の、「(ただし、被告西川薫を除く。)」をそれぞれ削除する。

13  原判決20丁裏6行目、7行目の「紫外線殺菌が本件物件1であって、」を削除する。

14  証拠として、原判決証拠欄摘示のとおりの提出、認否の外、当審において、控訴人は、甲第28号証ないし第35号証、第36号証の1・2、第37号証ないし第48号証、第49号証の1・2、第50号証、第51号証と第52号証の各1・2、第53号証ないし第59号証を提出し、証人松田巧、控訴人本人の尋問の結果を援用し、当審提出の乙号各証、丙号各証の成立(乙第4号証の1・2については、原本の存在及び成立)を認め、被控訴人松下電器産業株式会社、同東京ナショナル機器販売株式会社は、乙第4号証の1・2、第5号証、第6号証を提出し、被控控人有限会社西川製作所、同西川薫は、控訴人本人尋問の結果を援用し、右被控訴人4名を除く被控訴人山本武ら8名は、丙第11号証の1ないし3、第12号証、第13号証と第14号証の各1ないし3、第15号証ないし第17号証、第18号証と第19号証の各1・2、第20号証の1ないし4を提出し、被控訴人本人山本武の尋問の結果を援用し、被控訴人全員は甲第28号証ないし第35号証、第36号証の1・2、第37号証、第45号証ないし第48号証、第53号証ないし第57号証の各成立を認め、当審において提出されたその余の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

1  控訴人の請求権

控訴人が昭和31年9月26日に、考案の名称を「紫外線殺菌器」とする本件考案について実用新案登録を受け(登録番号第450992号)、昭和40年9月25日までその権利者であったことは、当事者間に争いがない。

(2) 被控訴人松下電器産業株式会社(以下「松下電器」という。)及び同東京ナショナル機器販売株式会社(以下「東京ナショナル」という。)に対する請求について

「控訴人は、被控訴人有限会社西川製作所及び同西川薫が本件物件1及び2を製造販売するにつき、松下電器及び東京ナショナルが、本件実用新案権を侵害することを知りながら、その教唆、幇助をしたと主張する。」

そこで、証人松田巧の証言、被控訴人本人山本武の尋問の結果、控訴人と被控訴人松下電器、同東京ナショナルとの間に成立について争いのない甲第8号証、第9号証の1・2、第22号証の1、第30号証、第32号証、第33号証、第36号証の1、第46号証、証人松田巧の証言により真正な成立の認められる丙第14号証の1ないし3及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(イ)  昭和33年1月21日頃、松下電器から、その製造する殺菌ランプ、殺菌器具販売の目的で東京に出向を命ぜられた松田巧は、同人も参画の上同年2月20日設立された東京ナショナルの前身(昭和36年3月10日商号を現在のとおりに変更した。)である東京ナショナル殺菌灯販売株式会社(以下「東京ナショナル殺菌灯」という。)の取締役営業部長として、その設立当初から昭和35年末頃までの間、当時理容業向消毒器メーカーであった被控訴人有限会社西川製作所(以下「西川製作所」という。)との、ナショナル殺菌灯納入の取引に責任者として携わり、定期的に西川製作所を訪問し、被控訴人西川薫及びその子西川弘と接触していた。

(ロ)  右期間中、東京ナショナル殺菌灯から西川製作所に納入されていたナショナル殺菌灯は、小型、横型を含む各種の消毒液に使用されるものであって、本件物件1、2に使用される目的で納入が始まったものでもなければ、また、それに限定されるものでもなかった。

(ハ)  右取引継続の間に、松田巧は、西川製作所からの依頼に基づき、西川製作所で当時製作していた本件物件1の写真入りのカタログ(甲第8号証)を起案して、4千ないし5千程度印刷し、西川製作所に交付した。

(ニ)  右カタログの作成は、当時販路開拓に力を入れていたナショナル殺菌灯大量買付けの顧客に対する販売担当者としての発意によるものであり、その個人的な責任のもとに、ナショナル殺菌灯の販売助成の一環として行なったものであって、とりたてて東京ナショナル殺菌灯ないし松下電器の業務として企画し、行なったものではなく、したがって、その起案のため松下電器の事業部の窓口であった照明器具事業部に相談した際、「ナショナル紫外線消毒器」の文字では誤解を受けるので、「ナショナル殺菌灯付消毒器」という表現を使うよう注意された程であった。

(ホ)  右カタログ4面のうち1面にある本件物件1の写真の向って左扉には、ナショナルのマークとナショナル殺菌灯15W付の文字が、向って右扉にはフィッシャーマークと紫外線殺菌消毒器の文字が、それぞれ表示され、同一面に「近代的な完全消毒器」「ナショナル殺菌灯15W付紫外線消毒器」の表示はあるが、他の表示また他の3個の表示はすべてナショナル殺菌灯を宣伝する内容のものであり、本件物件1の内部構造、特徴を現わす表示は全くない。

(ヘ)  松田巧は、右カタログを作成するについては、本件物件1の内部構造は認識していたが、本件実用新案権についての考案者、出願、登録の経緯は知るところでなかった。

(ト)  松田巧をはじめとして、松下電器ないし東京ナショナル殺菌灯に所属する者が、本件物件1もしくは2の製造販売、また、右カタログの配布について、技術指導、販売指導をしたことはなかった。もっとも、松下電器では、昭和33年11月頃、控訴人から本件実用新案権侵害の疑いのある本件物件1もしくは2の製造販売中止方の抗議の申入があった際、調査不十分もあって、その申入れの根拠となっていた甲第8号証のカタログの表示から、東京ナショナル殺菌灯が前記物件の販売元となっていると速断して、回答したことがある。

(チ)  紫外線殺菌消毒器そのものとしてナショナルのマークが表示された西川製作所製造の消毒器の写真入り広告が、昭和34年3月1日発行の業界雑誌「理容文化」3月号(甲第9号証の1・2)に登載されていることを、その頃知った松田巧が、西川製作所方に対し、ナショナルのマークを無断で使用することに抗議し、消毒器自体からナショナルのマークを外し、ナショナル殺菌灯を使用している表現に変えるよう申入れたことがある。

右認定に反する控訴人本人尋問の結果、甲第22号証の1の記載及び成立に争いのない乙第6号証の記載の1部は、前記カタログ(甲第8号証)及び雑誌「理容文化」(甲第9号の1・2)を入手した控訴人の推測もしくは伝聞の範囲を出るものではなく、にわかに採用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の(イ)ないし(チ)の事実を総合すると、甲第8号証のカタログの作成交付は、東京ナショナル殺菌灯の販売責任者として松田巧が、自社製品の宣伝を兼ねて行なった得意先へのサービスの域を出ないものであって、被控訴人西川薫もしくは西川製作所が本件物件1及び2を製造、販売するにつき、松下電器及び東京ナショナル殺菌灯が技術的示唆、指導もしくは販売政策上の助言、介入などにより、その教唆、幇助をしたとは到底認められない。(なお、昭和37年7月17日言渡の東京高等裁判所昭和36年行(ナ)第152号事件の、その上告審である昭和38年10月18日言渡の最高裁判所昭和37年(オ)第1167号事件の、また、昭和54年7月31日言渡の東京高等裁判所昭和53年行(ケ)第46号事件の各判決は、その理由において、本件における甲第8号証に当るカタログの存在と、これに対する訴訟代理人の訴訟上の陳述を前提として、大正10年法律第97号旧実用新案法第22条第1項第2号の規定に基づく権利範囲確認審判である昭和34年審判第29号事件における審判請求の要件である利害関係の存在を肯認したものであって、本件における前記判断は、これらの判決における判断と何ら矛盾、抵触するものではない。)

そうすると、その余の判断をするまでもなく、松下電器及び東京ナショナルに対する控訴人の請求は失当である。

(3) 被控訴人西川薫、西川製作所、松下電器、東京ナショナルを除く被控訴人山本武ら8名に対する請求について

控訴人は、被控訴人ら8名が共謀して本件物件1及び2を7,500台販売したと主張するところ、これに副う控訴人本人尋問の結果及び控訴人と右被控訴人山本武ら8名との間において成立に争いのない甲第18号証、第20号証、第21号証、第23号証、第24号証の各1の記載は、被控訴人山本武本人尋問の結果と弁論の全趣旨とにより西川製作所の西川弘らがその紫外線殺菌消毒器の広告を掲載したものと認められる前掲甲第9号証の1・2の雑誌「理容文化」及び同西川弘らの依頼によって同様の消毒器の写真が掲載されたものと認められる控訴人と右被控訴人山本武ら8名との間において成立に争いのない甲第10号証のカタログを入手したことからの推測ないし伝聞の域を出るものではなく、相反する被控訴人山本武の尋問の結果及び弁論の全趣旨に照らし採用することはできないし、他に主張のような具体的な販売の事実を証するに足りる証拠は存在しないので、これを認めることはできない。

そうすると、その余の判断を侯つまでもなく、右被控訴人山本武ら8名に対する控訴人の請求は失当である。

(4) 被控訴人西川薫及び西川製作所に対する請求について

1 本件物件1及び2の製造販売について

西川製作所が、控訴人主張の期間内に本件物件1を約10台製造販売し、また、本件物件2を約50台製造した事実は当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨によれば、被控訴人西川薫が西川製作所の経営者として、右製造販売に実質的に関与していたことが認められる。しかしながら、右台数を越えるその製造販売については、控訴人の主張に副う控訴人本人尋問の結果は、推測の域を出でず、弁論の全趣旨に徴し採用することはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠は存しない。

2 本件考案について

成立に争いのない甲第7号証(本件考案の実用新案公報)によれば、本件考案は、次の構成要件からなることが認められる。

(1)  前面に扉を備えた箱体内に棚を数段架設してあること、

(2)  該棚の各前端(登録請求の範囲に「前端」とあるが、明細書及び図面全体の記載、ことに、「殺菌ランプを箱内奥面に縦設し」「棚の前端には金網7を張ているために棚上に器具を載置する場合誤て殺菌ランプを破壊するの危険なく」「殺菌ランプの背後には反射鏡を装置して」などによれば、ここに「前端」とは、殺菌器に相対する者から見て、手前端でなく、先方端ないし前方端を指すことは明らかである。)と箱体内の奥面との間に適当な間隔を設けて、該部分の中央に殺菌ランプを縦設してあること、

(3)  殺菌ランプの背後に反射鏡を装置してあること、

(4)  棚とランプ装置室との間に保護金網を設けてあること、

(5)  以上の構造を備えた紫外線殺菌器であること。

3 本件物件1及び2について

前認定のとおり、西川製作所が製造もしくは販売し、被控訴人西川薫がこれに関与した本件物件1及び2は、別紙目録記載によれば、前2の項の本件考案の構成要件に対応させて分説すると、次のとおりの構成からなるものと認められる。

(1)' 前面に扉5を有する殺菌室4内に棚6を3段設けてあること、

(2)' 該棚6の各前端(手前端)と前面中央に縦設した支枠7との間に適当な間隔を設けて、右支枠7の内側に紫外線ランプ8を縦設してあること、

(3)' 紫外線ランプ8の背後には、鋼板に白色油性ペイントを塗装した凹形光線反射枠10―(1)、10―(2)を紫外線ランプ8に沿って右支枠7に取付けてあること、

(4)' 紫外線ランプ8の前側(棚6と紫外線ランプ8との間)にこれを半円形に囲むように細長いランプ保護杆9を数本縦設してあること、

(5)' 以上の構造を備えた紫外線殺菌器であること。

4 本件物件1及び2と本件考案との対比

前3の項に認定した本件物件1及び2は、その構成を、前2の項に認定の本件考案の構成要件と対比すると、次のとおり、少なくとも本件考案の構成要件(3)を具備しないから、本件考案の技術的範囲に属するとはいえない。

(1)  本件物件1及び2において、本件考案の構成要件(3)にいう「反射鏡」に対応するのは、その構成(3)'にいう、「鋼板に白色油性ペイントを塗装した凹形光線反射枠10―(1)、10―(2)」として特定されたものである。

そして、その形態は、ほぼ紫外線ランプのソケットの直径に相当する幅の凹形枠10―(2)を内側に、また、その凹形枠の幅のほぼ2倍強の幅を持つ凹形枠10―(1)を外側にし、紫外線ランプの縦設に対応した縦長矩形の鋼板枠である。

次に、白色油性ペイントを塗装した点について検討する。成立に争いのない乙第2号証の1ないし4によれば、本件考案の実用新案登録出願前の昭和28年11月15日に発行された社団法人照明学会編「照明のデータブック」には、紫外線すなわち殺菌線(成立に争いのない丙第15号証によれば、厳密には、紫外線のうちの特定波長のものを殺菌線ということが認められるが、便宜、ここに紫外線とは、殺菌線である紫外線を指すものとする。)を利用して病院等において空気の殺菌を行うために用いる殺菌灯につき、「反射がさは、器具の取りつけ位置と天井とに挾まれる空間にできるだけ多くの殺菌線を送り、下方へは危険な直射光が少しもこない形式のものを用い、天井が低い場合等には天井や壁の殺菌線反射率を減らすため油性ペイントを塗る。」と記載され、壁面の殺菌線反射率の例として、白塗しつくいが40ないし60%、水性ペイント(白)が10ないし35%、油性ペイントが3ないし10%のものが示されていること、成立に争いのない乙第3号証の1ないし8によれば、本件考案の出願日から約2年後の昭和31年9月頃に発行された「東芝レビュー」11巻第9号所載の東堯、白石啓文述「殺菌灯とその応用」には食器、調理器具、医療器具、農産物等に対する表面殺菌、戸棚、倉庫等に対する内面殺菌とその食品工業への利用に関する一般的注意として「作業員は長い手袋をはめて日焼けを防ぐ。テーブル面には油性ペイントを塗って殺菌灯の反射を少なくする。」と記載され、また、各種材料の紫外線反射率の表として油性ペイント(白)の反射率が6ないし9%であるのに対し、アルミニウム(電解研磨)(成立に争いのない丁第1号証及び前掲丙第15号証によれば、殺菌灯消毒液における反射板の材料として代表的なものと認められる。)の反射率が65ないし75%である旨記載されていること、成立に争いのない丁第4号証、乙第1号証の1ないし4によれば、昭和36年9月15日に発行された「日本公衛誌」第8巻第9号及び昭和43年11月29日に発行された社団法人照明学会編「新編・照明のデータブック」には、それぞれ、前記同様の各種材料の紫外線反射率の表によって同じ数値が記載されていることが認められる。右各記載事実によれば、本件考案の実用新案登録出願の前後を通じ、白色油性ペイントの紫外線反射率は、水性ペイント(白)にも劣り、3ないし10%程度に過ぎず、殺菌灯消毒器における反射板の材料として代表的なものとされる電解研磨加工されたアルミニウムの反射率65ないし75%に比較して数分の1から20分の1の程度を出ないので、白色油性ペイントの塗装は、紫外線を反射させることを目的としたものとは認められないばかりか、その反射効果はほとんどなく、かえって、鋼板の紫外線反射率を低減させ、その反射的効果を失わせる結果をもたらす表面加工であるとさえ認められる。

(2)  そうして、前掲甲第7号証によれば、本件考案の構成要件(3)にいう「反射鏡」について、本件考案の明細書には、その実用新案の性質、作用及び効果の要領の項に、「殺菌ランプの背後には反射鏡を装置してランプより発する紫外線を棚上に効果的に集中放射させる」と記載され、その第3図によれば、奥面の区画の左右全域にわたり広がった曲線、すなわち、かさ状、放物線状、円孤状等を前提として形状が示されているので、本件考案における箱内壁面部の加工(前掲丁第5号証の1ないし8参照)でなく、特に設けられたものである「反射鏡」は、殺菌ランプの背後にあって、その背後へ放射する紫外線を反射により棚上に集中させ、棚上に直接放射するものとともに、紫外線を効果的に殺菌のために利用する目的で設けられたものと認められるから、前掲乙第1号証及び第2号証の各1ないし4、丁第1号証、第5号証の1ないし8及び成立に争いのない丁第2号証並びに弁論の全趣旨をも考慮すると、紫外線をより効果的に反射させるために選択された材質よりなる、もしくはその反射率を維持、増進するための研磨等の表面加工が施された材料の板であって、しかも、棚上全体に紫外線を反射、集中させるための、かさ状ないし円孤状、多角形辺の連続等に広がった表面を備えるものというべきである。

ところで、本件物件1及び2の構成(3)'において「凹形光線反射枠」として特定されたものは、塗装された白色油性ペイントが、前認定のとおり、紫外線反射率が著しく低く、むしろ紫外線の反射を抑制する効果のある表面加工が施されている点で本件考案における「反射鏡」としての性質を持たず、また、前認定のような、棚上への紫外線の反射、集中からみれば、極めて狭少な、矩形枠状の表面しか有しないものであって、本件考案における「反射鏡」としての表面を備えず、したがって、「光線反射枠」という用語を借りて特定されているものの、いずれにしても、本件物件1及び2の構成(3)'にいう「鋼板に白色油性ペイントを塗装した凹形光線反射枠」は、本件考案の構成条件(3)にいう「反射鏡」に該当しないといわねばならない。

かえって、その形態及び扉5の開閉位置に近い装置位置を考え合わせると、棚上に載置される器具類の出入の際における作業員への紫外線の直射を避ける配慮を加えた、紫外線ランプ8のソケットホルダー(10―(2))及びソケットホルダーを取付けるための支枠(10―(1)、7)に過ぎないものと認められる。

なお、原告は、白色塗装に反射効果があるとされるのは、例えば螢光灯に取付けられた白色塗装の鋼板が反射板と呼ばれていることからも明らかであると主張するが、前掲丙第15号証によれば、螢光灯と殺菌灯との原理と構造はほぼ同じであるが、螢光灯においては、紫外線を通さない普通のガラス管が用いられ、灯内で生じた紫外線がガラス管の内側に塗られた螢光物質に当たって可視光線に変わり、この可視光線のみがガラス管外に出て照明に役立つものであるのに対し、殺菌灯においては、紫外線をよく通す特殊のガラス管が用いられ、灯内で生じた紫外線がそのままガラス管外に出るものであることが認められ、螢光灯における「反射板」が反射するものは可視光線であって紫外線でないことが明らかであるから、その主張は紫外線の反射と可視光線の反射との違いを無視するものであり、その前提において既に失当である。(なお、昭和50年7月16日言渡の東京高等裁判所昭和46年行(ケ)第144号審決取消請求事件の判決は、控訴人の被控訴人西川薫らに対する請求と当事者を異にするので、既判力牴触の問題を生ずる余地はないが、その判決理由の判断と前記認定とかかわるところなしとしないので附言する。同判決は、大正10年法律第97号旧実用新案法第22条第1項第2号の規定に基づく権利範囲確認審判である昭和34年審判第29号事件について昭和46年9月29日された「審判請求は成り立たない。」との審決を取消したものであるが、その理由において、本件物件1及び2に類似するイ号物件の構造が本件考案の技術的範囲に属する旨の判断を示している。ところで、同判決が対象とするイ号物件は、本件考案の構成(3)にいう「反射鏡」と対応する物について、単に「凹形光線反射枠」とするだけであって、それ以上、その材質、表面加工の内容など板の材料を特定しておらず、また、その形態における具体的な特定に欠けるので、本件物件1及び2における(1)'(2)'(4)'(5)'の構成を同じくするものの、(3)'の構成において異なり、結局、本件考案の構成と対比する物件として、その具体的構成が異なるので、本訴請求における前記判断とは矛盾するものではない。)

5 そうすると、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人西川ら2名に対する控訴人の請求もまた失当といわねばならない。

5 結論

以上のとおりであるから、控訴人の各請求を理由がないものとして棄却した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第95条本文、第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(荒木秀一 舟本信光 舟橋定之)

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